「年金を繰り下げると84%増額」と聞いて、何となく「お得そう」と思っていませんか?しかし繰下げ受給は「長生きするほど得」であり、平均寿命未満で亡くなればもらえる年金総額は減ります。さらに2026年4月から在職老齢年金の支給停止調整額が引き上げ(48万円→62万円)になるなど、制度の改正も進行中。
本記事では2026年5月時点の最新ルールに基づき、繰下げ受給の損益分岐年齢を実際に計算し、FPねこが「あなたが繰下げすべきか」の判断材料を整理します。
年金繰下げ受給の基本ルール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 老齢基礎年金、老齢厚生年金(両方/片方どちらでもOK) |
| 繰下可能期間 | 66歳〜75歳の間で1か月単位 |
| 増額率 | 繰下1か月につき+0.7%(一生継続) |
| 最大増額率 | 75歳まで繰下で+84.0% |
| 繰下中の保険料 | 不要(厚生年金加入し続ければ加入分は再計算) |
| 遺族年金との関係 | 繰下中に死亡 → 遺族年金は通常通り受給 |
繰下げ増額率の早見表
| 受給開始年齢 | 増額率 | 月額(基礎年金満額の場合:68,000円→) | 年額 |
|---|---|---|---|
| 65歳(基準) | 0% | 68,000円 | 816,000円 |
| 66歳 | +8.4% | 73,712円 | 884,544円 |
| 67歳 | +16.8% | 79,424円 | 953,088円 |
| 68歳 | +25.2% | 85,136円 | 1,021,632円 |
| 69歳 | +33.6% | 90,848円 | 1,090,176円 |
| 70歳 | +42.0% | 96,560円 | 1,158,720円 |
| 71歳 | +50.4% | 102,272円 | 1,227,264円 |
| 72歳 | +58.8% | 107,984円 | 1,295,808円 |
| 73歳 | +67.2% | 113,696円 | 1,364,352円 |
| 74歳 | +75.6% | 119,408円 | 1,432,896円 |
| 75歳 | +84.0% | 125,120円 | 1,501,440円 |
※基礎年金満額は2026年度の月額相当で試算。実際は毎年改定。
損益分岐年齢:何歳まで生きれば得?
繰下げ受給の最大の判断ポイント。「何歳まで生きるか」で得か損かが決まります。
| 繰下げ受給開始 | 増額率 | 損益分岐年齢(65歳受給と比較) |
|---|---|---|
| 66歳 | +8.4% | 77歳11か月 |
| 67歳 | +16.8% | 78歳11か月 |
| 68歳 | +25.2% | 79歳11か月 |
| 69歳 | +33.6% | 80歳11か月 |
| 70歳 | +42.0% | 81歳11か月 |
| 72歳 | +58.8% | 83歳11か月 |
| 75歳 | +84.0% | 86歳11か月 |
70歳開始なら82歳、75歳開始なら87歳まで生きれば総受給額が65歳開始を上回ります。
「自分が繰下げすべきか」を判断する5つの軸
軸①:健康状態と家系の寿命
2026年現在の日本人平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳(2023年厚生労働省発表値)。
- 家族・両親が長寿(85歳超)+健康状態良好 → 繰下げ有利
- 持病ありまたは家系的に短命 → 65歳開始 or 早期受給を検討
軸②:65歳時点の経済状況
65〜70歳の間、年金なしで生活できるかが鍵。
軸③:65歳以降も働くか
働き続けるなら繰下げ有利。給与所得+年金で生活できる人は迷わず繰下げ。
- 嘱託・再雇用で年200〜400万円稼ぐ予定 → 70歳まで繰下げ
- 自営業・フリーランス継続 → 75歳まで繰下げも視野
軸④:在職老齢年金の影響(65歳以降の働き方)
具体的には、給与(賞与含む)と厚生年金の合計が月62万円超になると、超過分の半額が支給停止に。62万円までなら年金フル受給可能。
つまり、月給40〜50万円の役員クラスでも、2026年4月以降は年金カットなしで受給できる。フルタイム継続派には大きな改善。
軸⑤:配偶者の年金との組み合わせ
配偶者の年金額・受給開始タイミングと組み合わせて世帯収支を最適化。
- 夫婦どちらかを65歳受給、もう一方を繰下げ → リスク分散
- 専業主婦の妻(第3号)→ 国民年金のみで満額68,000円程度。本人の繰下げで月12万円超に増額も
FPねこ推奨:3つのパターン別最適解
パターンA:65歳時点で資金的余裕あり+健康
推奨:70歳までの繰下げ。
- 年金額が+42%増額(基礎満額なら月68,000円→96,560円)
- 新NISA等の運用は継続可、節税効果も享受
- 万一の長生きリスクに対応
パターンB:65歳時点で経済的に普通+健康に不安なし
推奨:67〜68歳までの繰下げ。
- 増額率+16.8〜25.2%程度
- 損益分岐78〜79歳 → 多くの人が回収可能
- 無理せず受給と繰下げのバランス
パターンC:65歳時点で経済的に厳しい or 健康不安あり
推奨:65歳から通常受給。
繰下げ受給の落とし穴・デメリット
特に注意:加給年金の問題
厚生年金加入が20年以上ある人で65歳未満の配偶者がいる場合、加給年金(年間約40万円)がつきます。これは老齢厚生年金の付随支給なので、繰下中は受け取れません。65歳時点で配偶者が年下なら、加給年金を取ってから繰下を検討するのが鉄則。
繰下げ手続きの実務
特に手続きは不要、ただし請求書を出さない
繰下げを選びたい場合、65歳時点で送られてくる「年金請求書」を提出しなければ自動的に繰下げ扱いになります。受給開始したい時に改めて請求書を出すだけ。
請求書を出すタイミング
- 66歳以降、希望する時点で日本年金機構窓口 or 郵送で「老齢年金請求書」を提出
- 5年以内の請求なら過去分も一括受給可(時効による失権防止)
- 2023年4月の制度改正で「特例的な繰下げみなし増額制度」もスタート(72歳超で初請求 → 自動的に5年前繰下げ受給扱い)
繰上げ受給との比較(参考)
繰下げの逆、「繰上げ受給」は60〜64歳に早めに受給開始する選択。
| 繰上げ受給開始 | 減額率 | 月額(基礎満額の場合) |
|---|---|---|
| 60歳 | -24.0% | 51,680円 |
| 61歳 | -19.2% | 54,944円 |
| 62歳 | -14.4% | 58,208円 |
| 63歳 | -9.6% | 61,472円 |
| 64歳 | -4.8% | 64,736円 |
| 65歳(基準) | 0% | 68,000円 |
※2022年4月以降の改正後の率(1か月-0.4%)。それ以前は-0.5%。
- 一度繰上げると一生減額のまま
- 障害基礎年金・遺族厚生年金との併給制限あり
- 国民年金任意加入もできなくなる
- 緊急避難的な選択肢としてのみ検討すべき
よくある誤解
- ❌ 「繰下げは絶対に得」→ 平均寿命未満で亡くなれば総受給額は減る。健康状態と経済状況で個別判断。
- ❌ 「繰下げ中に死亡したら全額無駄」→ 遺族年金は別途支給。ただし繰下げ分の上乗せはなし。
- ❌ 「加給年金も繰下げで増額」→ 加給年金は増額対象外。配偶者を扶養している人は加給年金優先。
- ❌ 「繰下げると一生もらえなくなる」→ 5年以内なら過去分一括受給も可能。72歳超なら自動的に5年遡及。
- ❌ 「在職中だと年金は全額カット」→ 2026年4月から月62万円までフル支給。繰下げと並行可。
FAQ
Q. 老齢基礎と老齢厚生、別々に繰下げできる?
A. できます。例:老齢基礎を70歳まで繰下げ、老齢厚生は65歳から通常受給など。自分の経済状況と配偶者の年金額に合わせて柔軟に設計可能。
Q. 繰下げ中に病気で働けなくなった。どうする?
A. すぐに「老齢年金請求書」を提出すれば、その時点までの繰下げ増額率(例:68歳まで継続なら+25.2%)で受給開始できる。
Q. iDeCoと年金の受給タイミングはどう調整する?
A. iDeCoは60〜75歳で受給可。年金繰下げ中はiDeCoから取り崩して生活費に充てる方法が王道。退職所得控除・公的年金等控除の枠を最大活用できる順序を税理士に相談を。
Q. 海外移住したら繰下げ受給はどうなる?
A. 海外移住していても日本の年金は受給可能。日本年金機構の「在外受給者調査」に毎年回答する必要あり。為替リスクと現地税制も考慮。
Q. 妻が年下で加給年金がある。何歳まで繰下げできる?
A. 妻が65歳になるまで加給年金が支給される。妻の年齢-1歳以下の繰下げなら加給年金を取り損なわず、その後繰下げに切替も可能。設計次第。
Q. 65歳時点で年金額がいくらか確認するには?
A. 「ねんきん定期便」または「ねんきんネット」で確認可能。50歳以上ならより正確な見込額が記載される。
📌 ご利用にあたって
本記事は2026年5月時点の情報に基づく一般的な情報提供を目的としています。年金額は毎年改定されます。具体的な受給額・受給方法のご相談は日本年金機構の年金事務所、または社会保険労務士にご相談ください。法令改正により内容が古くなる場合があります。最新情報は日本年金機構をご確認ください。

