年金は繰下げ・繰り上げどっちが得?損益分岐点と「60歳と85歳でお金の価値は違う」話【FP解説】

iDeCo・年金
★ 結論
年金は「繰下げが数学的に有利」だけど“最強”とは言い切れません。長生き前提なら繰下げ(1か月0.7%増・最大84%増)、健康面や「早く使いたい」なら繰り上げ(1か月0.4%減・最大24%減)もアリ。損益分岐点は繰下げ70歳で約82歳・繰り上げ60歳で約81歳。60歳で使えるお金と85歳のお金は“価値が違う”——ここまで含めて決めるのが正解です。

「年金は繰り下げた方がお得!」——最近よく聞きますよね。たしかに受給を遅らせると一生もらえる額が増えるので、数字の上では有利です。でも当サイトは、「だから全員繰下げが正解」とは考えません。なぜなら、60歳で元気に使える100万円と、85歳でもらう100万円は“価値が違う”から。この記事では、繰り上げ・繰下げの仕組みと損益分岐点を正確に押さえたうえで、「繰り上げもアリ」な理由まで、独立系FPの本音で解説します🐾

先に結論

  • 繰下げ受給は“最強の長生き保険”。1か月遅らせるごとに0.7%増額し、75歳まで遅らせれば最大84%増。しかも増えた額は一生続く。長生きするほど得で、公的年金は「死ぬまでもらえる」終身保障だからこそ繰下げの価値が高い
  • でも繰り上げ受給も立派な選択。60〜64歳に早めると1か月0.4%・最大24%の減額になりますが、若く健康なうちにお金を使えるのは大きな価値。「旅行や趣味は体が動くうちに」という人には合理的です
  • 唯一の正解は無い。得か損かは「何歳まで生きるか」で決まり、それは誰にもわからない健康寿命・手取り(税・社会保険料)・他の資産・夫婦の状況を総合して、「自分にとっての正解」を選ぶのが大事です

まず仕組み:年金は「いつから受け取るか」を選べる

公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は、原則65歳から受給開始です。でも実は、受け取り始める年齢を60歳〜75歳の間で自分で選べるんです。早めれば「繰り上げ」、遅らせれば「繰下げ」になります🐾

受け取り方選べる年齢増減最大の増減
繰り上げ受給60〜64歳1か月ごとに 0.4% 減額60歳開始で −24%
通常(基準)65歳増減なし±0%
繰下げ受給66〜75歳1か月ごとに 0.7% 増額75歳開始で +84%

たとえば65歳でもらうと月15万円の人なら、ざっくり次のように変わります(イメージ)。

  • 60歳まで繰り上げ(−24%)→ 月約11.4万円(一生この額)
  • 70歳まで繰下げ(+42%)→ 月約21.3万円(一生この額)
  • 75歳まで繰下げ(+84%)→ 月約27.6万円(一生この額)

※繰り上げの減額率0.4%は、昭和37年4月2日以降生まれ(2022年4月以降に60歳になる人)が対象です。それより前に生まれた人は0.5%(最大30%減)になります。繰下げの0.7%・最大84%(75歳まで)は昭和27年4月2日以降生まれが対象。自分の生年で率が変わる点に注意してください。

損益分岐点:何歳まで生きれば「繰下げが得」になる?

いちばん気になるのが「結局、何歳まで生きれば得なの?」ですよね。受け取り始めが遅いほど月額は増えますが、その分もらえない期間が長いので、「総額」で逆転するまでには時間がかかります。ざっくりの分岐点(額面ベース)はこちらです🐾

比較総額が逆転する年齢(目安)意味
70歳繰下げ vs 65歳81歳11か月82歳より長生きするなら70歳繰下げが得
75歳繰下げ vs 65歳86歳11か月87歳より長生きするなら75歳繰下げが得
60歳繰り上げ vs 65歳80歳10か月81歳より長生きすると繰り上げは損になる

つまり「だいたい81〜82歳」が一つの分かれ目。それより長生きすれば繰下げが、早めに亡くなれば繰り上げ(早く受け取った方)が結果的に得、ということです。

※上記は“額面(税・社会保険料を引く前)”の単純比較です。実際は年金額が増えると、所得税・住民税・社会保険料(国保や介護保険)・医療や介護の自己負担割合も上がることがあり、手取りベースでは分岐点がさらに後ろ(高齢側)にずれるのが普通です。「額面で82歳」でも「手取りでは84〜85歳以降でやっと得」というケースもあります。

実際、みんなはどうしてる?繰り上げ・繰下げの割合【統計】

「で、世の中の人は実際どっちを選んでるの?」——気になりますよね。厚生労働省の事業年報(令和5年度末)から、繰り上げ・繰下げを選んだ人の割合を見てみましょう🐾

区分繰り上げ受給原則どおり(65歳前後)繰下げ受給
国民年金
(老齢基礎年金)
約24.5%
(約146.5万人)
約73%約2.2%
(約12.9万人)
厚生年金
(老齢厚生年金)
約0.9%
(約26.0万人)
約97%約1.6%
(約44.5万人)
  • ① 大多数は「原則どおり」…国民年金で約7割、厚生年金にいたっては約97%が65歳前後でそのまま受給。繰り上げも繰下げも、実は少数派です
  • ② 国民年金は「繰り上げ」が比較的多い…自営業・フリーランス等が中心の国民年金では約4人に1人(24.5%)が繰り上げ。「先に受け取りたい・生活の都合」というニーズが一定数あることがうかがえます(※繰り上げ率は年々低下傾向
  • ③ 「繰下げ」はまだ少数だが増加中…これだけ「繰下げが得」と言われても、選ぶ人は数%にとどまるのが現実。ただし繰下げを選ぶ人の割合は年々増えてきています

※出典:厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況/事業年報」(令和5年度末)。割合は年度・集計区分により変動します。原則どおりの割合は繰り上げ・繰下げを除いた概算です。

つまり「みんな繰下げしてるから自分も…」という選択ではないということ。だからこそ、“数字(損得)”だけでなく、自分の事情で決めることが大切です。ここからが、この記事のいちばん伝えたいところです🐾

★ここが本題:「60歳のお金」と「85歳のお金」は価値が違う

損益分岐点の表だけ見ると「長生きすれば繰下げが得じゃん」となりがちです。でも、これは“お金の額”だけの話。当サイトがあえて言いたいのは、「同じ100万円でも、使うタイミングで“価値”はまったく違う」ということです🐾

  • ① 健康に動ける時間は、思ったより短い…日本人の「健康寿命」(介護なしで自立して過ごせる年齢)は、おおむね男性72歳・女性75歳前後とされています。つまり「元気に旅行や趣味を楽しめる時間」は、65歳から数えても10年あるかどうか。85歳でもらう増額された年金は、使い道(体力・気力)が限られているかもしれません
  • ② 60代のお金は“経験”に変わる…体が動くうちの旅行・趣味・家族との時間は、後からお金を積んでも買い直せない。60歳で繰り上げて減った分があっても、「やりたいことを元気なうちにやれた」価値は数字に表れません
  • ③ お金は「あの世に持っていけない」…繰下げを待っている間に万一のことがあれば、増額された年金を受け取る前に終わってしまうこともあります。長生き“してから”得をする仕組みなので、“今を生きる”価値とのバランスが大事です

どれだけ年金を増やしても、お金はあの世には持っていけません。「いくら殖えるか」と同じくらい、「いつ・何に使えるお金か」が大切——これが、当サイトが“繰下げ一択”をすすめない理由です🐾

もちろん、これは「だから繰り上げが正解」という意味ではありません。長生きした場合の「お金が尽きる不安」はとても現実的で、繰下げはそれに対する強力な保険です。言いたいのは、「損益分岐点(=何歳まで生きれば得か)だけで決めず、“どの時期のお金を厚くしたいか”という人生の優先順位で選ぼう」ということ。繰り上げは“損な選択”ではなく、“時間の価値を取りにいく選択”でもあるんです🐾

繰り上げ受給の注意点(メリットだけじゃない)

「元気なうちに使える」のは大きな魅力ですが、繰り上げには取り返しのつかないデメリットもあります。ここを理解してから判断してください。

  • ① 減額は一生続く・取り消せない…60歳で−24%にすると、その後ずっと減ったまま。「やっぱり戻したい」はできません
  • ② 障害年金・寡婦年金が受けられなくなる場合がある…繰り上げると、あとから障害状態になっても障害基礎年金を請求できない等の不利が生じることがあります
  • ③ 国民年金の任意加入ができなくなる…納付月数が足りない人が60歳以降に任意加入して年金を増やす道が閉ざされます
  • ④ 遺族年金との調整…繰り上げ中は、遺族厚生年金などとの併給に制限がかかる場合があります

とくに「①一生減額&取り消せない」は重いので、繰り上げは「長生きしない確信」ではなく「今このお金が必要・使いたい明確な理由」があるときに選ぶのが基本です。

繰下げ受給の注意点(“増えた分”がまるまる手取りにならない)

逆に「繰下げ最強!」と飛びつく前に、見落としがちな落とし穴もあります。

  • ① 待っている間の生活費が必要…70歳まで繰下げるなら、65〜70歳の5年間は年金ナシ。その間の生活費を就労収入・貯蓄・NISA等の資産でまかなえる人向けです。生活を切り詰めてまで繰下げるのは本末転倒
  • ② 加給年金は繰下げ中もらえない…配偶者がいる人の「加給年金(年約40万円の家族手当)」は、厚生年金を繰下げている間は支給されず、増額の対象にもならない。該当する人は要計算です
  • ③ 働きながらだと“止まる分”は増えない…在職老齢年金で支給停止される部分は、繰下げても増額されません
  • ④ 税・社会保険料が増え、手取りは額面ほど増えない…年金が増えると所得税・住民税・国保や介護保険料・医療/介護の自己負担割合も上がることがあり、「額面+42%=手取りも+42%」とはならないのが現実です

結局どう決める?──独立系FPの考え方

正解は人それぞれ。そのうえで、判断の“ものさし”を整理するとこうなります🐾

  • STEP1:まず自分の年金額を知る…「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で65歳でもらえる見込み額を確認。話はそこからです
  • STEP2:長生きリスクが心配&他の資産が少ない → 繰下げ寄り…長生き家系・健康・「お金が尽きる不安が一番こわい」人は、繰下げで“終身の収入”を厚くするのが合理的
  • STEP3:健康に不安・早期リタイア・やりたいことがある → 繰り上げ or 65歳もアリ…「元気なうちに使いたい」価値を重視するなら、無理に繰下げない選択も立派です
  • STEP4:夫婦は“組み合わせ”で考える…たとえば収入の多い方(厚生年金が厚い方)を繰下げ、もう一方は通常 or 繰り上げなど、世帯全体で最適化できます。遺された側の生活費まで見据えると、長生きしやすい方を繰下げるのが効くことも
  • STEP5:公的年金“だけ”に頼らない…そもそもNISAでの自助(自分年金)があれば、年金の受け取り方の自由度も上がります。土台づくりは新NISAから

📌 受給開始年齢についての主観メモ

個人的には、「とりあえず65歳」か「働けるうちは働いて繰下げ」を基本線に考えつつ、繰り上げも“逃げ”ではなく立派な選択肢だと思っています(あくまで主観)。お金は“いつ使うか”で価値が変わるもの。85歳で増えた年金より、65歳で行きたかった旅行のほうが価値が高い人もいます。逆に「長生きしてお金が尽きるのが何より怖い」人には繰下げが効く。
大事なのは「世間が言う正解」ではなく「自分が後悔しない選び方」。そして判断材料を増やすために、現役のうちにNISAで自助の土台を作っておく——これがいちばんの“受給戦略”だと思います🐾

質問
結局、繰下げと繰り上げ、どっちが得なの?はっきり教えて!
はっきり言うにゃ……「何歳まで生きるか次第で、それは誰にもわからない」にゃ。これがいちばん正直な答えにゃ。額面の損益分岐点はだいたい81〜82歳で、それより長生きするなら繰下げ、早めに亡くなるなら繰り上げ(早く受け取った方)が得になるにゃ。でも大事なのは“お金の額”だけじゃないにゃ。60歳で元気に使えるお金と、85歳でもらうお金は価値が違うからにゃ。「長生きが不安→繰下げ」「元気なうちに使いたい→繰り上げや65歳」——自分の価値観で選ぶのが正解にゃ🐾
FPねこ
質問
繰下げを待ってる間、生活費はどうすればいいの?
そこが繰下げの一番のハードルにゃ。70歳まで繰下げるなら65〜70歳の5年間は年金がゼロだから、その間を働いた収入・貯金・NISAなどの資産で埋められる人向けにゃ。生活を切り詰めて、ガマンしてまで繰下げるのは本末転倒にゃ。それなら65歳から普通にもらって、心穏やかに暮らすほうがよっぽどいいにゃ。繰下げは「余裕がある人の“長生き保険”」くらいに考えるのがちょうどいいにゃ🐾
FPねこ

まとめ

  • 年金は原則65歳開始。60〜64歳に早める繰り上げ(1か月0.4%減・最大24%減)66〜75歳に遅らせる繰下げ(1か月0.7%増・最大84%増)が選べる(※減額率は生年で異なる)
  • 額面の損益分岐点は、繰下げ70歳で約82歳・75歳で約87歳・繰り上げ60歳で約81歳。手取りベースだと分岐点はさらに後ろにずれる
  • 繰下げは“最強の長生き保険”で数学的に有利。ただし待機中の生活費・加給年金・税社保増に注意
  • 繰り上げも立派な選択。「60歳のお金と85歳のお金は価値が違う」——元気なうちに使える価値を重視するなら合理的(ただし減額は一生・取消不可)
  • 唯一の正解は無い。健康寿命・他の資産・夫婦の状況で総合判断を。現役のうちにNISAで自助の土台を作っておくと選択の自由度が上がる🐾

よくある質問(猫がお答えします)

質問
繰下げを待ってる途中で死んだら、増額分は丸損?
増額された年金は受け取る前に亡くなれば、その増額分はもらえないにゃ。ただし未支給年金として、亡くなるまでの“本来もらえたはずの分”は遺族が請求できる場合があるにゃ。あと遺族年金は「本来の年金額(増額前)」をベースに計算されるから、「繰下げてたのに遺族には増額が反映されない」点も知っておくといいにゃ。だから繰下げは「長生きしたら得する保険」と割り切るのがコツにゃ🐾
FPねこ
質問
働きながら年金をもらうと減るって本当?繰下げした方がいい?
本当にゃ。在職老齢年金といって、給料と厚生年金の合計が一定額(2026年度はおおむね月50万円前後)を超えると、超えた分の年金が一部止まる仕組みにゃ。ただし止まっている部分は繰下げても増額の対象にならないから、「どうせ止まるなら繰下げて増やそう」が必ずしも有利とは限らないにゃ。働きながら年金を受け取る予定の人は、自分の給料と年金額で“いくら止まるか”を確認してから判断するといいにゃ🐾
FPねこ
質問
夫婦の場合、どう組み合わせるのがいい?
一概には言えないけど、ヒントは「長生きしやすい方・年金が厚い方を繰下げる」ことにゃ。一般に女性の方が長生きしやすいから、夫婦の一方(特に厚生年金が多い人)を繰下げて、遺された側の終身収入を厚くするのは有効にゃ。一方で、加給年金(配偶者がいる人の家族手当)がある人は、繰下げ中それをもらえないから損得が変わるにゃ。世帯トータル+“遺されたあと”まで見て決めるのがコツにゃ。複雑なら年金事務所で試算してもらうのが確実にゃ🐾
FPねこ

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※本記事は2026年6月時点の一般的な情報提供であり、特定の受給方法を推奨・助言するものではありません。繰り上げ受給の減額率(1か月0.4%・最大24%)は昭和37年4月2日以降生まれが対象で、それ以前の生まれは0.5%・最大30%です。繰下げ受給の増額率(1か月0.7%・最大84%/75歳まで)は昭和27年4月2日以降生まれが対象です。損益分岐点(繰下げ70歳で約81歳11か月、75歳で約86歳11か月、繰り上げ60歳で約80歳10か月)は税・社会保険料を考慮しない額面ベースの概算で、実際は税・社会保険料・各種自己負担の増加により分岐点は後ろにずれます。健康寿命(男性約72歳・女性約75歳前後)は厚生労働省の公表値に基づく概数です。在職老齢年金の基準額・加給年金の有無・障害年金/遺族年金との調整など、個別の取り扱いは生年月日や加入状況により異なります。最新かつ正確な情報・ご自身の試算は、日本年金機構(ねんきんネット)や年金事務所でご確認ください。

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